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「育てる」日本の舞台芸術

11281142 松岡 瑞季

第一章 日本の舞台芸術に生まれた3つの芽

    (1)3つの芽が生まれた理由

    (2)「人材育成の芽」が生まれた背景

    (3)「コンテンツ育成の芽」が生まれた背景

    (4)「販売チャネルの芽」が生まれた背景

第二章 日本の舞台芸術を育ててきた人々

    (1)本物を大衆に、小林一三の挑戦

    (2)クラシックとポップを融合する小池修一郎の作品

    (3)家族で楽しむ舞台を、浅利慶太の想い

第三章 舞台芸術を取り巻く「人材育成の芽」

    (1)日本独自の舞台人の育成

      ①スター育成型~宝塚歌劇団~

      ②発掘型~東宝株式会社~

      ③育成発掘両立型~劇団四季~

    (2)自国の芸術を愛する次世代の育成

    (3)新たな観客層の育成

第四章 世界に誇れる「コンテンツ育成の芽」

    (1)歌舞伎の変化

    (2)2.5次元ミュージカルの登場

第五章 舞台と人を繋ぐ「販売チャネルの芽」

    (1)日本版TIKS設立計画

    (2)舞台芸術関連コミュニティーサイトの多様化

第六章 まとめ

第一章 舞台芸術に登場した3つの芽

(1) 舞台芸術の3つの芽が登場した理由

2013年時点で、日本のライブ・エンターテイメント市場の規模[footnoteRef:1]は1兆2800億円と言われる。その内の約5割を「遊園地・テーマパーク市場」が占めており、それに次いで多いのが、約2割の「音楽市場」である。一方、音楽を除いたステージ市場は、「音楽市場」との間に「映画市場」を挟み、5分野中4番目の約1割の市場規模という結果になっている。ステージ市場のみの過去7年間の推移を見ても、2009年をピークに減少傾向が続いている。中でも一番規模が大きいのは、「ミュージカル」だが、ピーク時の671億円(2008年)と比較して、471億円まで減少している。(図1参照)その一方で増加傾向に転じているのは、「演劇」だ。2011年から2012年にかけて約1.4倍にまで伸びている。 [1: http://activeictjapan.com/pdf/141112_jimin_it-toku_pia.pdf エンターテイメント市場における「電子チケット」の現状レポート チケットぴあ株式会社]

図1

エンタ-テイメント市場における「電子チケット」の現状レポート 2014年11月 ぴあ株式会社より作成

国内のミュージカルと演劇の違いは、ミュージカルは海外からの輸入作品が圧倒的に多く、演劇は劇団自作の公演が多い事だ。実際に、2015年10月13日時点で「チケットぴあ」[footnoteRef:2]に掲載中のチケットのうち15番目までの作品中、演劇は海外からの輸入作がたった3作品だったのに対し、ミュージカルは9作品が海外からの輸入作になっている。同様に、全国11645団体もの大小様々な劇団が登録されている「CoRich!舞台芸術」[footnoteRef:3]というチケットサイトに掲載中の20番目までの演劇作品中、海外にルーツを持つ作品はたった4作品である。本場の作品を日本語で楽しめる輸入作品の増加は、一部の富裕層の楽しみにすぎなかった日本の舞台芸術を、より多くの人々にとって身近なものへと成長させた。現在でも、海外原作の作品は非常に人気が高い。演劇が人気である理由は輸入作品数の違いだけではないと思うが、ミュージカルの市場規模が右肩下がりなのに対して、日本のアニメを舞台化した2.5次元ミュージカル[footnoteRef:4]は右肩上がりに観客動員数を増やしている事からも、日本独自のコンテンツが求められている事は確かだ。ここまでのデータを見る限り、ステージ市場は飽和状態であり、次の新たな一手を求められているように感じる。 [2: http://t.pia.jp/stage/ チケットぴあ 演劇] [3: http://stage.corich.jp/ CoRich舞台芸術] [4: http://www.j25musical.jp/user/download/J2.5DMA_pamphlet.pdf 2.5次元ミュージカル 協会資料]

   この現状を受け、ステージ市場は、著しく減少傾向にあるミュージカルを中心に、確実に変化しつつある。西欧のモデルを参考に近代化してきた日本の舞台芸術であるが、今後は、海外の模倣の域を超え、日本独自の舞台芸術文化を育てて行く段階に達している。そんな中、日本の舞台芸術における様々な課題を克服すべく、新たな動きが起こっている。それをジャンル分けすると、「舞台芸術を取り巻く人々に関する動き」、「日本の舞台芸術における新たなコンテンツを育てる動き」そして、「人々と舞台をより身近な関係にする為のシステム造りに関する動き」である。これらの新たな試みは、飽和状態に陥っている舞台芸術の現状を打破し、日本の舞台芸術を今以上に人々にとって身近な存在へと成長させるために必要不可欠なものだ。そして、日本の舞台芸術を、将来的には世界に誇れる物へと育てていくためにこれから育てなければならない小さな「芽」である。本論ではこれらを「人材育成の芽」、「コンテンツ育成の芽」、「販売チャネルの芽」と名付け、それぞれの動きと、これらの芽が育った結果、日本の舞台芸術にどのような変化が現れるかを考察していきたい。

(2)「人材育成の芽」が生まれた背景

文化庁は、文化芸術を、「人々が心豊かな生活を実現していく上で不可欠な社会的財産」と定義し、「文化芸術立国中期プラン」[footnoteRef:5]を策定した。文化庁は、このプランの中で、実現すべき3つの項目を掲げている。「人をつくる」「地域を元気にする」「世界の文化交流のハブとなる」の3つである。 [5: 我が国の文化政策 平成26年]

中でも「人をつくる」について、「文化芸術における子供の育成」に関しては国が、「新進芸術家の育成」に関しては民間が担っていくという明確な役割分担がなされつつある事が、予算の推移[footnoteRef:6]を見る事で推測できる。文化庁の予算の内、「豊かな文化芸術の創造と人材育成」という項目を見ると、「新進芸術家の育成」に関する予算は、平成26年から極端に削られているのに対し、同年度から「文化芸術による『想像力・創造力』豊かな子供の育成」という項目が新たに追加され、それまでの新進芸術家の育成に費やされていた額に相当する額が新たに予算として割り当てられている。(図2参照)加えて、「新進芸術家の育成」に関する予算が減少傾向なのに対し、「子供の育成」に関する予算は増加傾向にある。実際に、平成14年から文化庁が主催する子供の為の舞台芸術の公演[footnoteRef:7]数も右肩上がりに増加している。発表されているだけでも、平成15年に525公演のみだった「本物の舞台芸術体験事業数が、平成20年にはその倍以上の1367公演にまで増加しており、今後は義務教育期間に少なくとも2回は舞台芸術に触れる事になる1900公演にまで公演数を増やす事を目標に、毎年272公演ずつ公演数を増やすことを計画している。この事からも分かるように、政府は、子供の教育面から「人をつくる」事に力を入れ始めている。これは、内閣府が平成24年に発表した「文化芸術立国の実現」[footnoteRef:8]の中で、文化芸術振興の為に力を入れて欲しい事項という質問で「子ども達の文化芸術体験の充実」と答えた人の割合が約50%となっている事、さらには、平成21年度の「文化に関する世論調査」[footnoteRef:9]では、地域の文化的環境の充実に必要な事項という質問で「子どもが文化芸術に親しむ機会の充実」という回答が約40%と、共に子供に関する文化芸術教育の充実が一番高い割合になっている事から、民意を反映した方針である事が分かる。国は、市民の声を反映し、子供の頃から気軽に芸術を楽しめる環境づくりを目標としている。その一方で、新進芸術家の育成に関しては国の手から民間の手に委ねられつつある。 [6: http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/yosan/ 文化庁予算 文化関係予算] [7: http://www.mext.go.jp/a_menu/hyouka/kekka/1285851.htm芸術文化の振興 文部科学省] [8: http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpab201301/detail/1339589.htm 文部科学省 第8章 文化芸術立国の実現] [9: http://survey.gov-online.go.jp/h21/h21-bunka/index.html 文化に関する世論調査 内閣府大臣官房政府広報室]

「芸術家等の人材育成」への予算[footnoteRef:10]は平成26年を境に大幅に削減されており、これは、近年、国内の芸術家を取り巻く環境が改善されつつある事が理由として挙げられる。総務省の「平成22年国税調査」によると、日本の芸術家人口は平成17年に比べ、わずかに減少したものの、約 [10: 文化芸術関連データ集 平成26年]

図2

文化庁ホームページより作成

49万人の芸術家が活動しており、「舞踏家・俳優・演芸家」は「デザイナー」に次いで二番目に多い約8万人活動している。その増加率も、調査開始当時の平成2年から22年にかけて15%という高い増加率になっている。これは、「劇団四季」や「宝塚歌劇団」等、安定した収入を得ながら舞台人としての教育を受けられる団体の増加や、民間のスクールの増加など、舞台人として必要な技術を学べる場所が増えた事が大きな要因の一つと考えられる。平成17年時点で、日本の芸術家人口の就業者総数に占める割合は0.50%と、アメリカ(平成16年)の0.42%、イギリス(平成17年)の0.83%[footnoteRef:11]と比較しても特別劣っているというわけでもない。(ニッセイ基礎研究所調べ)。また、日本芸能実演家団体協議会[footnoteRef:12]の2015年版の調査結果によると、芸術家の個人収入の平均をその前回(2010年)調査結果と比較すると、一年間の収入100万円未満の低所得者の割合が減少し、一番多い所得層も「100万~200万円」から「200万~300万円」へとシフトしている。同調査で、一年間に行った芸能活動以外の仕事の回答数の割合が、変動していない事を考えると、まだまだ格差はあるものの、本業での芸術家の収入環境は以前より改善されつつあると考えられる。(図3・4参照) [11: http://www.nli-research.co.jp/report/researchers_eye/2008/eye080616.html ニッセイ基礎研究所] [12: http://www.geidankyo.or.jp/research/index.html 日本芸能実演家団体協会 2015年調査結果]

また、同調査の中で、どのように現在の技能を身につけたかを複数回答で求めたところ、「その道のプロに弟子入りして教えを受けた」が42.6%、「小さいときから先生についてレッスン、指導を受けた」が32.9%、「専門学校・教室・養成所などで教育を受けた」が22.3%、「劇団・楽団などプロの集団に直接入って技能を身につけた」が20.8%という結果になった。さらに、「現代演劇・メディア」のみを対象にした回答の中では、「劇団・楽団などプロの集団に直接入って技能を身につけた」という項目が一番高い割合を占める。加えて、矢野経済研究所の「芸能系プロフェッショナル養成サービス市場に関する調査2013」の結果によると、これまで人気NO.1だった「俳優・タレント養成市場」は年々減少傾向が続いており、平成22年の6600百万円から平成25年(予測)には6100百万円にまで減少しているのに対し、「ヴォーカリスト・ダンサー養成サービス市場」は年々緩やかな増加傾向が続いており、平成22年の6200百万円から平成25年(予測)には6500

図3   昨年一年間の個人収入(年齢別)

日本芸能実演家団体協議会 調査報告書2015より引用

(第8回:2010年・第9回:2015年調査)

図4  昨年一年間に行った芸能活動以外の仕事(2010年調査結果との比較)

日本芸能実演家団体協議会 調査報告書2015より引用

万円に増加し、「俳優・タレント養成サービス市場」を追い越す形になっている。これらの結果から、特に舞台芸術に関しては、専門的な技術を学べる環境が充実してきているだけでなく、舞台人への関心も高まってきているようにも感じる。金銭的にはまだ十分とは言えないが、以前よりは環境が改善してきており、芸術家人口も増加傾向、さらに民間での学べる環境の増加などを理由に、「芸術家の育成」に関しては、国から民間に託されつつある。

イギリスやアメリカなどの、舞台芸術の盛んな国同様に、日本も、舞台芸術の発展の多くを民間の支援が支えてきた。今後、国は「次世代の育成」を、民間は「舞台人の育成」を担うという役割分担をしつつ、協力して「舞台芸術」を育てていかなくてはいけない。そんな中で生まれてきたのが、「人材育成」における様々な取り組みだ。

(3)「コンテンツ育成の芽」が登場した背景

   ブロードウェイでは、年々30以上の新作[footnoteRef:13]が発表されている。平成26年から27年の間だけ37 [13: http://www.broadwayleague.com/index.php?url_identifier=season-by-season-stats-1 THE BROADWAY LEAGUE]

作品もの新作が発表された。一方日本のミュージカルは、その上演作品の多くが海外から輸入した作品だ。月に一度のペースで作品を変えて上演している宝塚歌劇団[footnoteRef:14]でも、平成27年に上演された、もしくはこれから上演予定の全30作品中18作品が、海外の舞台をリニューアルしたものか海外のコンテンツを原作にして制作された舞台だ。特に、ブロードウェイ日本支社との印象すら感じさせる劇団四季[footnoteRef:15]では、平成27年10月現在上演されている15作品中、子供向けミュージカルの2作品を除いてほとんど全てがブロードウェイミュージカルを日本版にアレンジしたものだ。東宝株式会社[footnoteRef:16]でも、平成27年10月現在ホームページ上に掲載している公演予定作品全26作品中14作品と、半数近くが海外にルーツを持つコンテンツばかりだ。この数字だけを見ると、日本に不足しているのはコンテンツ力の様に感じる。 [14: https://kageki.hankyu.co.jp/ 宝塚歌劇団 公式ホームページ] [15: https://www.shiki.jp/ 劇団四季 公式ホームページ] [16: https://www.toho.co.jp/stage/ 東宝株式会社 公式ホームページ]

しかし、クールジャパンの言葉で知られているように、日本のコンテンツ産業には、世界中からの需要があり、現在最も期待される分野の一つだ。実際に、みずほ銀行が発表している「2014年みずほ産業調査」[footnoteRef:17]の結果によると、出版では毎月6,000~7,000 点を超える新刊が発行され、映画では、洋画を上回る邦画が公開されている。またアニメーションでは、1 ヵ月に平均13 本のテレビアニメ番組の新作が放映され、音楽では、毎年300~500 もの国内アーティストがデビューしているという。映画市場では、興行収入全体に占める、邦画の割合が年々増加しているだけでなく、公開本数推移も邦画の割合が洋画の割合を上回っている(図5参照)。同調査内で公開されている2011年から2013年までの興行収入ランキングには各年5から9作品のアニメーション映画がランクインしており、その数も年々増加している。(図6参照) [17: http://www.mizuhobank.co.jp/corporate/bizinfo/industry/sangyou/pdf/1048_03_02.pdf  「みずほ産業調査Vol.48」]

  これらの結果からも、日本のアニメが国内で十分に浸透し、人々に親しまれている事が分かる。日本のアニメーション産業は、市場全体は減少傾向(経済産業省[footnoteRef:18]調べ)(図7参照)にある一方で、アニメーション作品の動画配信売上高は右肩上がりに増加している。インターネットの普及などにより、アニメ関連商品への需要が減少し、市場全体は縮小傾向にあるものの、コンテンツそのものへの需要は大きいと考えられる。特にアジア圏での日本のコンテンツの人気が高い。「よく見るアニメ・マンガ」や「好きなドラマ」等、の質問項目における回答の中で「日本」という回答がかなりの割合を占める。 [18: http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/contents/downloadfiles/1401_shokanjikou.pdf 「経済産業省 コンテンツ産業の現状と今後の発展の方向性 平成26年」]

図5 興行収入における邦画・洋画シェア(左図)・公演本数推移(邦画・洋画)(右図)

      

    

「みずほ産業調査 2014年NO.5」より引用

図6 映画興行収入ランキング

みずほ産業調査 2014年NO.5」より引用

       

図7 アニメ制作会社の海外販売売上高推移

(億円)

「経済産業省 コンテンツ産業の現状と今後の発展の方向性 平成26年」より引用

図8 好きなコンテンツの制作国

経済産業省「コンテンツ産業の現状と今後の発展の方向性」より引用

日本のコンテンツ産業には世界中に大きな需要があるにも関わらず、デジタルコンテンツの急速な普及により、CDやDVDを買わなくても、いつでもどこでも好きなコンテンツを楽しめるようになった事や、海賊版などの不正コンテンツの拡散などの影響を大きく受け、日本のコンテンツ産業は頭落ちになっている。この現状を打開できる新たな取り組みが、これらのコンテンツの舞台化である。舞台芸術は、自ら会場に赴き、出演者、他の観客などと共に同じ空間を共有する点に魅力がある芸術だ。そのため、様々なコンテンツの舞台化により、国内だけでなく海外に散らばる原作ファンを日本に誘致する事ができる。また、スター重視の日本の舞台芸術の特徴もあり、出演者自身にファンがつけば、また新たなビジネスチャンスが生まれる事になる。ファンクラブ収入、スター関連グッズ、チケットや写真、同スターが出演する他舞台への観客の誘導など、経済効果をもたらすであろう関連商品の種類が大幅に増える事が予測できる。これらの理由から、伝統芸能も含め、日本の豊富なコンテンツを国内外問わず再度売り出していくための様々な取り組みが始まっている。

(4)「販売チャネル増加の芽」が生まれた背景

   日本の観劇人口は減少傾向が続いている。博報堂生活総研「生活定点」調査[footnoteRef:19]によると、観劇を「趣味」と答えた人の割合は、前回の2012年の数値に比べると1%増加したものの、1992年の13.4%から7.7%まで緩やかに減少し続けている。 [19: http://seikatsusoken.jp/teiten2014/answer/690.html 生活定点1992ー2014]

   しかし、舞台芸術の人気が落ちているわけではない。サービス産業生産性協議会が2015年に発表した、「2014年度日本版顧客満足度指数年間発表」[footnoteRef:20]の結果によると、顧客満足度が高いと評価された企業のランキングで、他ジャンルの候補企業を退け、「劇団四季」が一位、間に「東京ディズニーリゾート」を挟み、3位が「宝塚歌劇団」になっている。受けたサービスと品質に対比して利用者が感じるコストパフォーマンスを数値化したランキングでも、チケット代が10000円をきる「劇団四季」は1位に君臨している。一方で、チケット代が比較的高額な「宝塚歌劇」は一気に順位を落とし、10位という結果になっている。さらに、他者への推奨意向に関するランキングでも「劇団四季」は3位、「宝塚歌劇」は7位と順位があく。ところが、将来の再利用意向、つまり、リピーターになりたいかどうかの意識調査では、「劇団四季」の名前が挙がらず、「宝塚歌劇」のみが9位に残るという結果になっている。人々は、宝塚歌劇に対して、「劇団四季」以上にリピーターになりたいと感じているにもかかわらず、最終的な満足感は「劇団四季」の方が高いと感じている。この結果からも、人々がチケット代を意識しており、その高さが、受けたサービスの質以上に、最終的な満足感に影響を与えているという事が分かる。 [20: http://activity.jpc-net.jp/detail/srv/activity001451/attached.pdf 2015年度JCSI第三回調査結果発表]

   国の予算を民間からの寄付額が上回っている[footnoteRef:21]日本は、アメリカやイギリスと似た文化芸術の支援体制ができている。アメリカもイギリスも舞台芸術の盛んな文化大国だ。そんな2国の舞台芸術と日本の舞台芸術の最も大きな違いが、チケットの値段ではないかと感じる。正規の値段で比較すると、ブロードウェイミュージカルは、現在日本でも大人気の「アラジン」で9240円~20640円(1ドル=120円換算)、最高級のプレミアムシートで32280円という価格になっている。その他の様々な劇場で上演されている作品を比較しても、平均9000円から20000円弱、プレミアシートで50000円程度だ。同様に、イギリスの舞台の金額も、だいたい3000円から10000円という価格帯になる。日本の舞台は平均5000円~14000円という価格帯になっているため、一見特に高いというわけでもない。しかし、特にブロードウェイミュージカルには、格安チケットが流通している。ブロードウェイミュージカルの格安チケットを手に入れる方法は、「TKIS」[footnoteRef:22]というブースで並んで当日券を購入するか、「BROADWAY BOX」というサイトで事前に限られた公演数の中からクーポンを購入する方法の二つだ。しかし、どちらを選んでも、だいたい半額近くでチケットが買える。チケットを値引きする行為自体がマナー違反とされ、当日券が値引きされる事のない日本の舞台芸術では考えられない事だ。ブロードウェイでは、「ロングラン」というシステムが成立しており、観客動員数の多い舞台は公演期間を延長される。公演期間が延びれば延びる程、一席あたりの料金は安くても元がとれるシステムだ。日本でも、「劇団四季」がロングランシステムを導入しているが、日本では期間を区切られた公演が主流だ。舞台芸術は一度の公演内でいかに多くの観客を動員できるかで利益が決まる。空席が出れば損害も大きく、チケットはただの紙切れとなる。特に日本のように、公演期間が短く区切られている場合はなおさらだ。しかし、日本で当日券が格安販売される事はない。期間が区切られている故、正規の値段で席を埋めなければ利益が出にくい。このような事情が、結局の所、日本の舞台芸術の入場料を割高にしている。 [21: 文化芸術関連データ集] [22: http://nagatuduki-eikaiwa.com/1535.html 飽きっぽい人の為の長続き英会話 http://gogony.blog5.fc2.com/blog-entry-29.html ニューヨーク一人旅 DREAMING NY http://ameblo.jp/amamizu7/entry-11651258238.html 雨音のぶろぐ http://www.nytix.com/Broadway/DiscountBroadwayTickets/TKTS/ NY SHOW TIKETS https://www.tdf.org/nyc/7/TKTS-ticket-booths TIKETShttp://www.broadwaybox.com/  BROADWAYBOX.com http://www.broadway.com/ BROADWAY]

   もう一つの日本の特徴として、「劇団主義」という側面がある。日本には、大小合わせて3000近くの劇場が全国に点在しており、それに加えて劇団の数も、把握しきれない程存在する。劇団は、プロからアマチュアまで、誰でも結成する事ができるため、正確な数を把握できない。あるコミュニティーサイトでは1000を超える団体が登録されている一方で、社団法人日本劇団協議会に登録している劇団数は減少傾向にあり、現在65団体である。劇団にとっては、より広く自分たちの存在やチケット情報を拡散する場所が必要であり、一般の人々にとっては、幅広い劇団や公演情報を知る場所が必要である。

    これまで記したような日本の舞台芸術における課題を克服すべく、様々な取り組みが民間の手によって行われている。そうして生まれたのが、「販売チャネルの芽」である。

第二章 日本の舞台芸術を育てた人達

(1) 小林一三

  ①小林一三という人物

    小林一三と言えば、阪急電鉄の沿線開発で大きな功績を残した人物としてその名を轟かせている。世間一般に知られている阪急阪神百貨店の設立や、阪急沿線の住宅開発等の他にも、電機会社の執行役や、映画館の開場、東宝映画配給会社(現東宝株式会社)の設立、全国高校野球の開始、さらには商工大臣までも引き受けた。様々な顔を持つ小林一三だが、その最も有名な功績と言えば「宝塚歌劇団の設立」だろう。宝塚歌劇団は、今では日本で知らない人がいないといっても過言ではない程有名な商業劇団の一つとなっている。私は、小林一三が宝塚歌劇団を通して達成した最も大きな功績は、舞台に関わる「人」を育てた事だと考えている。小林一三はプロの舞台人である「タカラジェンヌ」と「観客」の両方を育てた。

図9 小林一三の人生録(赤字は舞台芸術に関わる部分)

出来事

明治26年

三井銀行に就職(30歳)

明治41年

三井銀行辞職、箕面有馬電気軌道株式会社の発起人になる

明治43年

宝塚線・箕面支線営業開始。箕面動物園を開園。

明治44年

宝塚新温泉の営業開始

大正2年

全国中学校優勝野球大会(高校野球)を開催・宝塚歌唱隊を組織

大正3年

宝塚温泉パラダイス劇場で宝塚少女歌劇第一回公演を開く

大正7年

宝塚少女歌劇の東京公演・宝塚音楽学校校長に就任

大正9年

梅田に阪急ビルディング施行

大正13年

4千人を収容する宝塚大劇場が施行

大正14年

宝塚ホテル設立

昭和2年

阪急電鉄取締役就任・東京電燈株式会社取締役に就任

昭和7年

株式会社東京宝塚劇場創立

昭和8年

池上電気鉄道株式会社取締役に就任

昭和9年

日比谷映画劇場を開場

昭和10年

日本劇場を東宝の経営とする・有楽座開場・欧米視察

昭和11年

阪急職業野球団結成・東宝映画配給会社設立

昭和12年

株式会社江東天地設立・西宮球場開場・帝国劇場を吸収合併

昭和14年

日本軽金属株式会社社長就任

昭和15年

商工大臣に就任・特派使節として蘭印に赴く・宝塚少女歌劇を「宝塚歌劇」と改称

昭和16年

商工大臣を辞任

昭和21年

公職追放される

昭和26年

公職追放解除・東宝社長就任・新日本放送局

昭和31年

株式会社新宿コマスタジアムおよび株式会社梅田コマスタジアム設立

昭和32年

逝去

   

 ②小林一三が育てた一流の舞台人「タカラジェンヌ」

小林一三が校長を務めた宝塚音楽学校は、舞台人として必要な技術だけでなく、一人の女性として身に着けるべき教養も、二年間という期間を通して身に着ける場となっている。たびたびマスメディアに取り上げられる程厳しい規律の中で、ただの舞台人を超える「タカラジェンヌ」という存在が誕生する。現在でこそ授業料を徴収している宝塚音楽学校だが、小林一三が校長を務めた初期の頃は、授業料をとらず、授業に必要な楽器や道具は全て学校が用意した。こうして、小林一三は一から、当時の日本には存在しなかった、歌舞伎や芸者以外の「舞台人」を育てる事に成功した。音楽学校卒業後も、宝塚歌劇団に所属している限り、タカラジェンヌ達は「生徒」と呼ばれ続ける。それだけでなく、舞台上では実力主義、それ以外の場所では年功序列という徹底した秩序をたたきこまれる。これらの宝塚独特の規律が、タカラジェンヌ達を、どんなにスターに成長してもおごり高ぶらず、常に学び続ける姿勢を忘れない舞台人へと成長させる。こうして宝塚を卒業していくタカラジェンヌ達は、宝塚で学んだ事を土台にし、第二の人生を歩む。中には一流の舞台人として宝塚以外の舞台で活躍し続ける人も少なくない。独特の特徴を持つ「タカラジェンヌ」だが、宝塚を卒業後も幅広い道が開けているのは、小林一三がスキルのみを伝える教育ではなく、プロの舞台人として、また、一女性として必要な教養を身に着ける人材教育を行ったからだと思う。

③日本に舞台芸術の「観客」を育てた小林一三

小林一三は、それまで日本にあまりなかった観劇の習慣を日本に紹介した。初期の宝塚歌劇団の脚本や演出までも担当し、関係者と欧米視察に出かける等、上演内容のクオリティーにかなりこだわった。本物を大衆へ届けるべく、当時は割高で、なおかつ一等席、二等席、と座席によってサービスや料金に差があった日本の劇場を、全席均一価格、同等のサービスに変更し、現在は常識となっている観劇スタイルを確立した。この改革により、それまでは舞台を見に行く事が難しかった庶民も気軽に舞台芸術を楽しむ事が出来るようになった。その結果、ステータスとしてではなく、純粋な娯楽として舞台芸術を楽しむ観客が増加した。舞台芸術は、「舞台人」と「観客」が同じ空間を共有し、共に創り上げていくものだ。そんな「舞台人」と「観客」の両方を育て上げた小林一三は、まさに「人材育成の芽」を日本に植えた最初の人物と言えるだろう。

(2) 小池修一郎

  ①小池修一郎という人物

日本の舞台芸術で、コンテンツの育成という点において課題となっているのは、「より幅広いコンテンツを用意し、より多様な舞台芸術への興味の入口を用意する事」と「日本独自の舞台芸術を確立する事」の二つだ。前者に関しては、ただ舞台芸術の敷居を低くすれば良いのではなく、多彩な入口からさらに芸術への興味や理解を深めていけるようなものを目標とする必要がある。小池修一郎は、これらの課題に今まさに取り組み、日本の舞台芸術に多大な影響を与えている人物である。

「エリザベート」「ロミオとジュリエット」「1789」、これらは海外でミュージカル化されていた作品を、小池修一郎が演出を担当し、日本で公演したミュージカルの数々だ。しかも、これらの作品は、それまでの定番だったブロードウェイからの購入作ではなく、オーストリアやフランスなどの、それまで日本人にあまり馴染みの無かった国のミュージカルだ。小池修一郎の多々ある代表作の中でも、この3作品の最も大きな特徴は、宝塚歌劇と東宝株式会社の両方で舞台化されている点だ。

   ②観客層に合わせたアレンジの天才「小池修一郎」と傑作「エリザベート」

小池修一郎の名をこの世に轟かせた作品である「エリザベート」は、ウィーン発祥のミュージカルであり、他のどの国よりも早く日本で世界初公演された。1996年の宝塚歌劇団での初演を皮切りに、宝塚歌劇で8回、東宝株式会社で5回再演されている。宝塚歌劇では「ベルサイユのばら」「風と共に去りぬ」の両作品に次ぐ200万人という観客動員数を実現している。東宝株式会社では、1987年から19回も再演され続け、圧倒的な人気を誇る「レ・ミゼラブル」の一回当たりの平均上演回数である約148回を遙かに超え、たった5回という再演回数を通して平均上演回数が約213回にまで達している。これらの事実を目の当たりにすると、この「エリザベート」という作品が、どれ程異例の人気作か簡単に想像がつく。

ここで注目すべきなのは、一人の演出家が、二つの劇団で全く同じ作品の演出を担当し、それが両方で人気演目になっている事だ。宝塚歌劇団は女性だけの劇団という特徴を持っており、この特殊性ゆえ、観客が求めるものも、普通の劇団とは少し違っている場合が少なくない。しかし、小池修一郎は、全く同じ作品を、観客層の違う二つの舞台で見事に成功させたのだ。東宝版エリザベートは、宝塚版よりもより原作に忠実に、そして「死」を表現したキャラクターであるトートを美しさより怖さや勢いを感じるキャラクターとして描いている。「エリザベート」だけでなく、小池修一郎は世界でまだあまり知られていない隠れた名作を日本に誘致し、日本オリジナルヴァージョンとして生まれ変わらせてきた。近年では韓国でも同じ舞台の演出を依頼されている。これらの事から分かるように、小池修一郎は舞台芸術を様々な対象にむけてその都度アレンジし直す力に長けている。海外の作品を日本で受け入れられるモノへと生まれ変わらせる事もさることながら、同じ日本でも、観客、キャストが違えば演出も変える必要がある。小池修一郎は、観客、キャストを人一倍意識して舞台を創り上げている。特に、日本で「エリザベート」が初演された年は、阪神淡路大震災の直後だった事もあり、「死」を強く表現しているこの作品が当時の日本で受け入れられるかは賛否両論あったが、独自の演出により、初演を大成功に収めた。

   ③小池修一郎作品と日本の舞台芸術のこれから

そして、来年、日本オリジナルコンテンツの舞台化として、「るろうに剣心」の宝塚歌劇での舞台化にも演出家として携わっている。海外の作品を日本版として独立させる段階を脱し、次は日本のコンテンツで今まで舞台芸術に関心の無かった新たな客層を獲得するという狙いがあるように感じる。2015年夏に再演された「エリザベート」でもその兆候は出ている。それは、キャスティングが一新され、より若い世代を中心とした舞台に大きく変更された事だ。何百年も昔に存在した海外の皇后の物語が、現代の日本を生きる若者に強いメッセージを発する舞台へとアレンジされている。壮大なストーリーと、個性の強い登場人物達の存在は、観客の見方一つで様々な共感の仕方ができる舞台に仕上がっている。小林一三が育てた「舞台人」「観客」と共に、小池修一郎は新たな日本の舞台芸術を確立するためのコンテンツを育てている。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              

(3) 浅利慶多

  ①浅利慶多という人物

浅利慶多は、日本の舞台芸術を日本で最も大衆化している劇団、「劇団四季」の創設者だ。「劇団四季」にも固定のファンは存在するが、劇場で最も良く見かけるのは親子連れだ。他にも、恋人同士や夫婦、友人同士など、多様な観客層が存在する。

第三章 舞台芸術を取り巻く「人材育成の芽」

(1) 日本独自の舞台人の育成

  ①育成型~宝塚歌劇団~

  ②発掘型~東宝株式会社~

    東宝株式会社は、宝塚歌劇団や劇団四季のように、自社所属の劇団を中心にした舞台創りをあまり行わない。自社で舞台人を育てて舞台に立たせる事よりも、ブロードウェイ同様にオーディション等を通して実力派のキャストを採用する事を目標としているように感じる。東宝にも「東宝現代劇75人の会」と呼ばれる劇団が存在するが、新人劇団員を増やし、育てる動きは殆どなく、自社の看板となるような舞台のキャストとして、自社の劇団員を優先的に採用しているわけでもない。一方で、来年以降、東宝株式会社の提供している舞台の中でも、特に人気シリーズである「レ・ミゼラブル」「ロミオとジュリエット」等の主要キャストを、一般人も含めた大々的なオーディションで決定する事を発表している。今までは、ミュージカル界で名が知れた役者や、元タカラジェンヌを積極的に主要キャストに採用し、オーディションはあまり公には知らされてこなかった。来年上演が決定している上記の二作品は主役からオーディションで決定する。

    ブロードウェイ同様のオーディション型を日本で実現する為には、それだけ多くの人々にとって舞台芸術が身近な存在であり、なおかつ、高い技術や潜在能力を持った舞台人が国内に多く存在する必要がある。つまり、オーディションの対象となるような受験者の厚い層がなければならない。現在、東宝株式会社が特に力を入れているのはこの点を強化していく事である。東宝が運営する「東宝ジュニア」では、子供達が舞台芸術に気軽に触れられる機会を通してEQ教育(心の教育)をしていく事を目的とした人材育成のための機関である。レベル別に三つのクラスがあり、上級クラスになると、本格的に舞台人として必要なスキルを学ぶ事になる。また、中でも希望者には、レベルに合ったオーディションの紹介も行っている。初級クラスでは、スキルを身に着ける事を目標とするのではなく、ただ純粋に舞台芸術に触れる事を楽しむ事を目的にしている。それに加えて、親子で気軽に参加できるワークショップ等も定期的に行っている。「東宝ジュニア」はスキルを持った舞台人を育て、潜在能力を持った舞台人の卵を発掘する為の機関としての役割を果たすと同時に、舞台芸術を子供達にとって身近な存在にするための機関としての役割も果たしているのだ。

「東宝ジュニア」の活動に加えて東宝株式会社が行っている取り組みの中で最も特徴的なものは「のど自慢大会」だ。日本では身近な文化の一つである「のど自慢大会」を、ミュージカル音楽に限定したイベントに変えて開催している。2015年「レ・ミゼラブル」の公演を記念して行われた「のど自慢大会」では、1832通もの応募の中から審査で選ばれた20組が、多くの舞台芸術が公演されてきた帝国劇場の舞台で歌声を披露した。この時は「レ・ミゼラブル」の音楽に限られていたが、次回開催が決定している「ミュージカルのど自慢大会」ではミュージカル音楽であれば演目は限定しない。それだけでなく、地方別に会場が設けられ、プロの講師の指導を受けた上で成績優秀者が帝国劇場で歌声を披露する事ができる。これほど大きな舞台でミュージカルの楽曲を歌うイベントに、これだけの応募が集まるまでに、日本の舞台芸術は一部の確固たるファン層を確立している。舞台人として必要なスキルを身に着ける教育機関等の充実だけでなく、このような舞台芸術に気軽に触れる機会の増加により、オーディション型を採用する事が可能になるだけのスキルを持った人材を増やしていく事ができる。実際に、この「のど自慢大会」でファイナリストとして歌声を披露した参加者たちの中には、プロとして舞台に立っていてもおかしくないレベルの参加者も少なくない。東宝株式会社は、このような取り組みを通して舞台芸術を人々にとって身近な存在へと成長させていく事で、東宝株式会社が目指すオーディションによる発掘型の人材育成を実現していこうと動き出している。

   

  ③育成発掘両立型~劇団四季~

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