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・亡潟蔵>oL21i\lo .2(1989)259

● 研究

嗜 好 品 の 心 血 管 系 へ の

急 性 効 果

●喫煙,コ ーヒー同時負荷時の心拍 ・

血圧反応の検討

世戸弘美  松井 忍  村上暎二

江本二郎  円山寛人  大森政幸

三島一紀  寺畑喜朔

*金沢 医科 大学中央臨床検 査部

**同 循環器 内科

(〒920-02石 川県河北郡 内灘 町大学1-1)

Effects of coffee and cigarette smoking on the

blood pressure and the heart rate in normal

young men

Hiromi Seto*, Shinobu Matsui**,

Eiji Murakami*, Jiro Emoto**,

Hiroto Enyama**, Masayuki Oomori*,

Kazunori Mishima*, Kisaku Terahata* . *Department of Central Laboratory

, * *Department of Cardiology

, Kanazawa Medical University Hospital.

(1988年3月10日 原稿受領)

— Key words

coffee

cigarette smoking

blood pressure

heart rate

rate-pressure product

§ 抄録

嗜好品 ・特 にタバ コとコー ヒー同時摂取が心拍,

血圧 に及ぼす影響 を検 討 した.

対象 は健常若年男性5名 で,嗜 好品 としてタバ コ

とコーヒー同時摂取 とそれぞれ単独 を用いた.タ バ

コ単独では,血圧(収 縮期/拡張期)8.8/4.8mrnHg,

心拍数18.5beats/mh}の 増加 を示 した.コ ー ヒー

単独 では血圧8/13.6mmHgの 上昇を認 めたが,心

拍数 には有意 な変化 を認 めなか った.タ バコ とコー

ヒー同 時摂 取 で は血 圧11.6/7.6mmHg,心 拍 数

20、6beats/minの 増加 を示 し,ratepressurepro・

ductは コー ヒー単独 に比 し有意 に,ま た,タ バ コ単

独に比 して も増加傾 向を認 めた.血 中カ フェイン濃

度は,タ バコ とコー ヒー同時摂取で コー ヒー単独 に

比 し有意な上昇 を認めた.血 中エ ピネ フリン濃度 と

血中カフェイン濃度 との間には有意な正相関 を認め

た.以 上 より心拍 ・血圧反応 はタバ コとコー ヒー同

時摂取でそれぞれ単独に比 しよ り大 き くかつ遷延す

る傾 向がみ られ た.こ れには両者併用に よるよ り一

層の血 中カフェイン濃度上昇 とそれに伴 うエピネ フ

リンの遊出が関与 している もの と考 えられた.

(心臓21:259~266,1989.)

タバコおよびコーヒーは二大嗜好品であ り「コ

ー ヒーを飲みなが らタバ コを一服」は 一般的なス

トレス解消法 として広 く親 しまれている.タ バコ

およびコーヒーの愛用者はこれ らによりス トレス

が解消され精神集中も計れ作業能率が向上すると

信じている.タ バ コやコーヒーの主成分であるニ

コチンやカフェインの薬理作用 として交感神経荊

激のみならず迷走神経刺激や中枢神経系の興奮作

用が報告されている1).し か し,こ れ らの作用が

どのような機序で作業の能率化やス トレス解消 に

役立 っているかは萌 らかではない.心 血管系に対

するこれ ら嗜好晶の急性作用 もある程度ス トレス

解消,作 業能率化 に関与 している可能性がある.

それぞれ単独では,一 般 にタバ コで一過性(15分

以内)の 血圧上昇 と心拍数増加が,コ ーヒーでは

1~2.5時 間にわたる血圧上昇 と心拍数減少 を示

すと報告 されている2)'v6).しかるに,コ ーヒー と

タバコは しば しば同時 に嗜 まれるにもかかわ ら

ず,そ の際の急性の心拍 ・血圧反応 を観察 した報

告はほとんど見あたらない.

そこで,今 回,著 者 らは通常摂取する量のタバ

コならびにコー ヒー,両 者 同時摂取の場合 の心

拍 ・血圧反応 に及ぼす影響についてそれぞれ単独

摂取の場合 とそれ との比較において検討した.

260'亡 ・月蔵>oL21No.3(1989)

図1方 法

§ 対象ならびに方法

普段か らタバコ,コ ーヒーを嗜む健常若年男性

5例(年 齢22~30歳,平 均26歳)を 対象とした.

対象者の喫煙歴は一日平均17本5年,お よびコー

ヒー摂取量は一 日平均2、6杯 である.こ れ ら対象

者に各々4日 間,毎 日午後3時 より検査 を施行 し

た。検査は前夜より禁煙 とコー ヒーならびにカフ

ェイン含有食品の摂取 を禁 じ,30分 間の安静を取

った後,各 嗜好晶を10分 間で摂取 し,全 経過2蒔

間30分 で行 った.用 いた嗜好品は1)タ バコ 〔ハ

イライ ト2本(ニ コチ ン含有量1.3mg/1本 〉),2>

コーヒー 〔コーヒー豆25g+水300ml(カ フェイ

ン含有量90mg>),3)タ バ コとコーヒー〔1>+2)〕

である.ま たタバ コ,コ ーヒーなしの安静のみの

コン トロール値 も測定した.検 査は前,10分 後,

30分 後,60分 後,90分 後,120分 後 に行 い,心 拍

数 は第II誘 導心電図記録 より求 め,水 銀血圧計

を用い,聴 診法により上腕動脈血圧の測定を行っ

た.な お心拍i数,お よび血圧の前値は連続3回 測

定の平均値 を用いた.ま た前,10分 後,30分 後,

60分 後,120分 後で,ニ コチン,カ テコールアミ

ンの血中濃度瀾定用 に静脈採血を血圧測定の反対

側の肘静脈 より行 った.同 様 にカフェインの甑中

濃度測定用採血は前,3◎ 分後,60分 後,12◎ 分後

で行った 一(図1>.ニコチンおよびカフェインの血中濃度の測定は

ガスクロマ トグラフィーにより行い,カ テコール

ア ミンの血中濃度の測定には高速液体 クロマ トグ

ラ7イ ーにより行 った.

,ま た,推 計学的検定にはF検 定およびpaired-t

検 定 を用 い た.

§ 結 果

検 査 前3回 の 測 定値 の 安 定 性 は比 較 的 良 好 で あ

っ た.各 検 査 施 行 前 の 心 拍 数,血 圧(収 縮 期/拡 張

期)は そ れ ぞ れ タ バ コ 単 独 で61.0±3.3bpm,

106。0±2.6/62.4±6。7mmHg,コ ー ヒ ー 単 独

62.0±3.9bpm,1◎4.0±2.6/50。8±4.7mmHg,

タ バ コ と コ ー ヒ ー 岡 時 負 荷57.0±2.2bpm,

102.8±4,7/63.2±5。lmmHg,コ ン ト ロ ー ル 時

60.0±4.9bpm,104。4±2.8/70。8±3.5mmHgで

あ っ た.コ ー ヒ ー単 独 時 と コ ン トロ ー ル 時 との 間

に拡 張 期 血 圧 に お い て 有 意 差 が 認 め られ,こ れ ら

測 定 値 の 間 に 日差 変 動 の あ る可 能 性 が示 され た た

め,以 後 の検 討 は す べ て 変 化 量 に よ り行 った.

1)心 拍 ・血 圧 反応 、

収 縮 期 血 圧 は タ バ コ に よ り10分 後 に8.8±3.O

mmHg(mean±SEM>上 昇 し た が,そ の 後 減 少

した.コ ー ヒ ー で は有 意 な変 化 は み られ な か っ た

が,そ の 変 化 量(ASBP)は90分 後 に6.4±4.6

mmHg,120分 後 に8.0±3.4mmHgと 上 昇 傾 向

が み られ た.タ バ コ と コー ヒー 同 時 摂 取 で は,10

分 後 に ∠SBPは11.6±5、7㎜Hg撮 大 の 上 昇

を示 し,そ の 後 も6◎ 分 後11.2±4.7mmHg,120

分 後9.2±3.6mmHgと 有 意 な 上 昇 を認 め た 。60

分 後 に は タバ コ と コー ヒ ー 同 時 摂 取 に よ る変 化量

は コ ー ヒー 単 独 に比 し有 意 に大 で あ っ た(図2).

拡 張 期 血 圧 は,タ バ コ に よ り上 昇 し,そ の 変 化 量

(ADBP)は30分 後4.8±1.5mmHg,120分 後

5.6±1.5mmHgで あ っ た.コ ー ヒー で は30分 後

11.6±3.6mmHg,90分 後13.6±5.3mmHg,120

'亡・月蔵>oL21No.3(1989)261

図2収 縮期 血 圧 の変化 量(∠SBP>の 経 時的 変化

OContro1,●:Tabacco単 独(T>,▲:Coffee単 独(c>,

■TabaccoとCoffee同 時負荷(T+C),barはmean±SE.を 示 す.

*p〈0.05:検 査 前値 に対 す る有 意差 の危 険率 を示 す.

(T)VS(T+C):Tabacco単 独 とTabaccoとCoffee同 時負荷 時 の変

化 量 の比較 を示 す.

(C>VS(T+C):Coffee単 独 とTabaccoとCoffee同 時 負荷 時 の 変化

量 の比 較 を示 す.

図3拡 張期血圧の変化量(aDBP>の 経時的変化

記号,略 語 は図2を 参照.

分後13.6±43mrnHgと それぞれ有意な上昇 を

認 めた.タ バ コとコー ヒー同時摂取では10分 後,

30分 後ではタバ コとほぼ同等の変化を示 し,そ の

後120分 後 までは,タ バ コとコーヒーのほぼ中間

の値を示 した.各 嗜好品間では有意な差を認 めな

かった(図3).平 均血圧 は,タ バコにより,そ の

変 化 量(aMDP)で10分 後7.0±2.3mmHgと

上 昇 を認 め,そ の後 は落 ち 着 く傾 向 を示 した.コ

ー ヒ ー で は30分 後8 .0±2.2mmHg,60分 後

7.0±4.6mmHg,90分 後10.4±5.OmmHg,120

分後11.6±3.8mmHgと30分 後 に 上 昇 しそ の 後

も徐 々 に上 昇 す る傾 向 を示 した.タ バ コ と コー ヒ

262'V且 蔵VOL21No .3(1989)

図4平 均血圧の変化量(AMBP>の 経時的変化

記号,略 語は図2を 参照.

図5心 拍数の変化量(AHR>の 経時的変化

記号,略 語は図2を 参照.

一 同 時 摂 取 で は10分 後 に7 .8±4.3mmHg上 昇

しそ の 後 も持 続 す る傾 向 が み られ た(図4>.

心 拍 数 は,そ の 変 化 量(dHR)で,タ バ コで は

10分 後18.5±4.9bpm,30分 後 に13.2±4.l

bpm,60分 後7.2±2.Obpm,90分 後6.4±1.9

bpm,120分 後7.6±3。4bpmと 直 後 に増 加 しそ の

後 も60分 後 まで 有 意 な 増 加 を 示 した.コ ー ヒー

で は 有 意 な変 化 を認 め な か っ た.タ バ コ と コー ヒ

ー 同 時 摂 取 で は,直 後 か ら120分 後 ま で20.6±

2.2bpm,12.6±2.9bpm,10.0±3.1bpm,6.0±

1.5bpm,7.4±1.1bpmと 有 意 な 増 加 を示 した.

タ バ コ と コー ヒー 同 時 摂 取 は,コ ー ヒー単 独 に比

し30分 後,60分 後,120分 後 で心 拍 数 は有 意 に増

加 し た(図5).

Ratepressureproduct(RPP)は タバ コ に よ り

10分 後 か ら60分 後 まで,タ バ コ と コ ー ヒー 同 時

摂 取 に よ り10分 後 か ら120分 後 まで,前 値 に 比 し

有 意 に増 加 し,タ バ コ と コー ヒー 同 時 摂 取 は コー

ヒー一単 独 に比 べ30分 後 か ら120分 後 に か け て そ

の 変 化 量(ARPP>は 有 意 に 大 き く,タ バ コ単 独

に比 して も大 な る傾 向 が み られ た(図6).

2)血 中 ニ コチ ン な らび に カ フ ェイ ン濃 度

血 中ニ コチ ン濃 度 は タ バ コ単 独,タ バ コ と コー

ヒ ー 同 時 摂 取 共 に10分 後 に26.6±6.7μg/ml,

'亡滑蔵>oL21No.3(1989)263

図6Ratepressureproduct(RPP)の 変化量(ARPP>の 経 時 的変 化

記 号,略 語 は図2,図5を 参 照.

図7血 中ニコチン濃度(左),カ フェイン濃度〈右〉の変化量(∠)の 経時的変化

記号,略 語は図2,図5を 参照.

26.2±6.9μg/mlと 最大変化量を示 し60分 後 ま

でその血中濃度は有意に高かった.

血中カフェイン濃度 はコーヒー単独,タ バコと

コーヒー同蒔摂取で=共に30分 後 に3 .1±0.6μg/

ml,4.1±0.6μg/mlと 最大変化量 を示し,そ の後

120分 後 まで有意に高い値 を認 めた.タ バ コとコ

ーヒー同時摂取はコーヒー単独 に比 し,カ フェイ

ンの血中濃度 はより上昇す る傾向がみ られ,120

分後にはその変化量 は有意に大 きかった(図7>.

3)血 中ノルエ ピネフリンおよびエ ピネ フリン

濃度

血 中ノルエピネフ リン濃度 は各嗜好品で有意な

変化がなかったが,血 中エ ピネフリン濃度はタバ

コ単独,タ バコとコー ヒー同時摂取で共に10分 後

から120分 後 まで有慧な上昇 を示した.タ バコと

コーヒー同時摂取でタバコやコー ヒー単独に比 し

より上昇する傾向を認め,120分 後にタバ コ単独

に比 し有意な上昇を示 した(図8).

4)血 中カフェイン,ニ コチン濃度 とカテコール

ア ミンとの関連

264・ じ♪月蔵Vo{.21No.3(1989)

図8血 中ノルヱピネフリン濃度(上 段),エ ピネフ

リン濃度(下 段)の 変化量(∠)の 経時的変

記号,略 語は図2を 参照.

タバコとコーヒー同時摂取時の血中カフェイン

濃度の変化量 と愈中エ ピネフリン濃度の変化量の

間にはr=O.69でp<0.01の 正相関 を認 めた(図

9).な おコー ヒー単独ではこれ ら両者間には有

意な相関 を認めなかった.ニ コチン濃度 とカテコ

ールアミンの問には有意な相関を認めなかった.

§ 考察

1)タ バ コの心拍 ・血圧反応への影響

タバ コが心廠管系に対 し急性の作用をもた らす

原因 としてニ コチンとCOHbが 重要である。ニ

コチンの急性効果 としては血圧,心 拍数,心 拍出

量,冠 血流量の増加,心 収縮力増大,末 梢虚管収

縮作用な どが挙げられる.こ れ らの作用発現には

ニコチンによる交感神経刺激作用を介するものが

図9血 中カフエイン濃度の変化量(AP-Caffeine>とエピネフリン濃度のそれ(AP-Epineph血te>

との関係

(r=0.69,p<0.01>

考え られてい る7)'"s>。一方,COはHbと の親和

性が極めて高 く,喫 煙によるCOHbの 増加 は02

Hbな らびに02解 離の低下 をきた し,組 織 への

02供 給能の低下 とCO2の 組織か ら血中への排瀧

を障害する.COHbの 血行動態への影響 をみた

成績では,ニ コチンを含 まないタバ コを吸ったあ

とでは血圧,心 拍数,心 筋酸素消費量 には変化 は

みられなかったと報告されている.た だ運動 に際

しては狭心症例においてその耐容能 を低下させる

ようである10).こ のように安静時におけるタバ コ

の心血管系への急性効果は殆 どニコチンに依存す

るようである。著者 らの成績ではタバ コ単独で旗

圧(収 縮期/拡 張期>8.8/4.8mmHg,心 拍数18.5

beats/minの 増加を示 し,諸 家の報告 とほぼ一致

した成績 を得た.そ の反応は短時間でありニコチ

ン血中濃度の推移 とほぼ一致 した動 きを示 した.

血中エピネフリン濃度 もニコチン濃度 とほぼ同様

の経時的変化を示 したことより,タ バ コの心血管

系への急性効果の多 くは前述のごとく交感神経一

副腎髄質系を介することが示唆された.

2)コ ーヒーの心狛 ・血圧反応への影響

コーヒーの主成分であるカフェインは,テ オフ

ィリン,テ オブロ ミンと同様キサンチン誘導体で

ある.こ れ らはほぼ共通 した薬理作用,す なわち

中枢神経系に対する興奮作用,利 尿作用,心 筋へ

の興奮作用,平 滑筋弛緩作用 を有 している.

・亡・員蔵VoL21No3(1989)265

カフェインの中枢作用に関 しては,詳 しい研究

がなされているが期,心 血管系に対する急性効果

に関す る報告は比較的少ない.2~3の 報告 を総

合すると,約2杯 のコーヒー摂取により喪圧 は,

収 縮 期 で最 大4~9mmHg,拡 張期 で8~10

mmHg上 昇 し,心 拍数 は5~10beats/min減 少

する.ま たその効果は少なくとも2.5時 間以上持

続するようである12)13).著者 らの成績では血圧で

は収縮期8rnmHg,拡 張期13,6mmHgの 上昇を

認めたが,心 狛数に関しては諸家の報告 に反 し有

意な変化を示さなかった.コ ー ヒーによる血圧上

昇には,カ フェインによる心血管系への直接作用

と副腎髄質刺激作用の双方の関与が考 えられる、

血中カフェイン,エ ピネフリン濃度の経時的変化

よりコー ヒーの血圧反応は初期はカフェインの直

接作用が,後 期 には副腎髄質系の関与が大きいと

推察 された.コ ーヒーによる血圧上昇 には心拍出

量増加,あ るいは搬管抵抗増大が考 えられるが,

従来の成績か らは血管抵抗増大の関与が大 きいと

考 えられている.コ ー ヒーによる心拍数減少は今

回の著者 らの検討では認められなかったが,一 般

には血圧上昇 による圧受容体反射に起因するとさ

れている.

ここで問題 になるのはコーヒーの耐性の問題で

ある.Ammonら は8人 の健常若年者 を対象に検

討を行い,毎 日8杯 の コーヒー(カ フェイン504

mgに 相 当)を 摂取 させた場合,5日 目よ り心拍

数,血 圧の有意な変化を認めな くなった と報告し

ている瑚.こ のようにコー ヒーの多量摂取者では,

心拍,血 圧に対 し鮒性が生 じている可能性がある.

しかるに,今 回の対象者 は比較的少量のコーヒー

摂取者であ り,かつ少な くとも20時 間のコーヒー

非摂取の間隔があるため,こ の点 は考慮する必要

はないと考 えた.

3)タ バ コとコー ヒー同時摂取 の心拍血圧反応

ぺの影響

タバコとコーヒー同時負荷時の心拍反応に関す

る報告は極 めて少な く,著 者の調査 した範囲では

Frees亡oneら の軽症高血圧症患者 を対象 とした検

討があるのみである.彼 らの報告によると両者併

用により血圧反応 は増強かつ遷i延する傾向にあっ

たが心拍反応には相加効果は認めていない.著 者

らの若年健常者を対象 とした今回の成績 でも同様

に血圧反応特に収縮期血圧において反応の増強 と

効果の遷延化を認めた.し かるに心拍反応ではタ

バコとコーヒー同時摂取でタバコ単独 とほぼ同様

の変化 を示した.そ の結果,心 筋酸素消費量 と密

な関係があるRPPが コーヒー単独 に比 し有意

に,タ バ コ単独に比 しても増加傾向にあり,両 者

併用 によるより一層の心筋酸素消費量増大が示唆

された.

さて,こ こで問題 となるのは虚血性心疾患や高

血圧症においてタバ コとコーヒー同時摂取が健常

者 とほぼ同様の反応 を示すか否か についてであ

る.こ の点に関しては現時点では十分な成績は得

られていない.た だ,著 者 らのタバコ単独の検討

では,狭 心症患者で健常者に比 し,収 縮期血圧の

増加が有意に大であった15).同 様に虚血性心疾患

や高血圧症例 においてはタバ コとコーヒーの同時

摂取による心拍 ・血圧反応が健常者に比 しより大

なる可能性がある.し たがって,器 質的冠動脈狭

窄を有する狭心症,心 筋梗塞症例や高血圧症例で

の「コ ーヒーを飲みなが らタバ コを一服」は 冠危

険因子 としてのみならず急激な心拍 ・血圧反応の

充進の危険性をはらんでおり十分な注意が必要で

ある.

タバ コとコー ヒー併用による血圧反応の充進 と

遷延化の原因 としては,併 用による血中カフェイ

ン濃度の有意な上昇 とそれに伴 う血中エピネフリ

ン濃度の上昇が挙げられ る.ニ コチンは消化管の

蠕動充進,胃 酸分泌促進などカフェイン吸収増強

に働 く効果を有 してお りその結果 として血中カフ

ェイン濃度が有意に上昇 した ものと考えられた。

§ まとめ

健常者若年男性5名 を対象に,喫 煙 とコーヒー

同時負荷時の心拍血圧反応 を検討 した.両 嗜好品

同時負荷によりそれぞれ単独負荷時に比 し,収 縮

期血圧,ratepressureproduct(RPP)増 加が著

しく,か つその反応 はより遷延化 した.喫 煙 とコ

ー ヒー同時隼荷時カフェイン濃度 はコー ヒー単独

に比 しより一層上昇 し,そ れに伴いエピネフリン

は著 しい分泌増加 を示 した.こ れが喫煙 とコーヒ

ー同時負荷時の血圧反応の充進 と遷延化の原因 と

考えられた.

266'亡 〉見蔵VOI.21NO.3(1989)一

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